そっくり人形作りの公式

　人間は過去のことの多くを忘れてしまいます。そのため我々が過去の記憶を引っ張り出すことに役立つのが写真やビデオです。それらを見ることで過去の出来事が思い出されて郷愁に浸ることが出来ます。そっくり人形も写真やビデオ同様に思い出を形で残しておけるものです。それは私がそっくり人形を作ろうと思った理由の一つでもあります。
　

過去と現在の間

　しかしどのような手段を用いても思い出せることは今まで経験したことの内の僅かだけです。そして思い出せることでもなぜその出来事を覚えているのか不思議なこともあります。当時の自分にとってそのことが余程衝撃的なことだったのかもしれません。しかし忘れてしまったことの中にも同じように衝撃的なことがあったようにも思います。記憶に残っていることと残らないこと、その差は何なのか自分には分かりません。
　

　我が子との出来事は全て記憶に留めておきたい。多くの親はそう思うことでしょう。しかし悲しいかな、もうすでに思い出せないことだらけです。成長していくことは喜ぶべきことなのですが、それと同時に小さくて可愛かったころの面影が無くなっていくことに寂しさを感じます。恐らく今日起きる出来事もいずれ忘れてしまうのでしょう。
　

　写真を見れば当時のことを思い出すことが出来る。でもそれは断片的なことです。当時と今を繋いできた軌跡を詳細に思い出すことは出来ません。その軌跡の中にも大事な思い出がいっぱいあるはずなのに。それらは一体どこに行ってしまうのでしょうか。
　

　ただ、具体的なことを思い出すことは出来なくても、親子として体験したことはお互いの感情として残っているはずです。子供に好かれる親もいれば嫌われる親もいる。個人差はあるでしょうが、親として何をしてきたかによって子供が抱く感情は変わるのだと思います。だからと言って甘やかすのが良いわけではありません。好かれることを目的に接しているといずれ子供に見抜かれて軽蔑されます。時には社会の厳しさや理不尽さを親子という関係の中で教えなければいけません。子供にとってはつらいことですが、それはやがて貴重な経験として役立つのだと思います。そしてそのような経験をしてきたことが子供が大人になった時に親との強い絆となっていることに気付くはずです。
　

　過去と現在の間の空白の記憶を埋めるのが、それぞれに残っている相手に対する感情なのではないでしょうか。そう考えると子供とはいつも真摯な態度で接しないといけないと思うのです。