そっくり人形作りの公式

　そっくり人形が思っていたほどそっくりではなかった。その時にお客様はどうするのでしょうか。〝まあ、こんなものなのかな〟と思って自分に納得させるのか、それとも制作者に作り直しを依頼するのか、対応は人それぞれだと思います。本来はそのようなことが無いように作るのがベストなのでしょうが、満足度100%はとても難しいことです。
　

イメージの難しさ

　制作者がそっくりに出来たと思ってもお客様が同じようにそっくりだと感じる保証はありません。それがこの仕事の難しいところです。注文した時点では完成品を見ることは出来ません。それでもお客様の中では完成イメージがある程度出来上がっているものです。しかしそのイメージを制作者と共有することは出来ません。
　

　初めて入るレストランの味は分かりません。それでも店構えが立派で素敵だととてもおいしいのだろうというイメージを抱いてしまうものです。シェフだって当然おいしいと言ってもらいたいと思って作っているでしょう。だからといって全てのお客様の口に合うとは限りません。人それぞれ好みがありますからおいしいという人もいればそうでない人もいるものです。おいしいと感じられなければ期待外れということです。それは完成品を事前に確認できない商品には常に付きまとう問題です。
　

　お客様が納得されるかどうかには支出した費用との関係もあるでしょう。〝この値段なら仕方ないかな〟と思えれば自分の中に収めることは出来るでしょう。しかし〝これだけ値が張るのにこの程度か〟となると文句の1つも言いたくなるはずです。レストランであればまだ〝もうこの店には来ない〟ということで諦めを付けやすいですが、そっくり人形だとそうはいかないのではないかと思います。食事よりも1桁多い支払いになるのが普通ですから。
　

　そう考えると完成品を味見（提示）できないのに〝本当においしい（そっくり）です〟と事前に伝えるのは不親切な気がします。完成品に自信がないからではありません。言えば言うほどお客様の良いイメージを膨らませてしまうからです。同じ完成品でもイメージの膨らみ方で〝思っていたほどおいしく（そっくりでは）ない〟になったり〝思っていたよりもおいしい（そっくり）〟になったりします。そしてその時のお客様の喜びの度合いも変わります。とうぜん後者の方が喜びは大きいはずです。実際に手にした時の喜び、それがオーダーメイドの商品の大事な要素の一つだと思います。