そっくり人形作りの公式

　そっくり人形はどんなに上手く出来たと思っても、それが制作者の自己満足で終わってはいけません。人形のモデルご本人はもちろんのこと、ご家族やご友人など周りの人達にも喜んでもらえてこそ〝良い人形〟と言えるでしょう。
　

思い出と人形

　そっくり人形はご本人が自分のために注文される場合もあれば、ご友人へのプレゼントの場合など、様々なパターンがあります。その中にはお亡くなりになられた大切な人を偲んで、という場合もあるでしょう。どのような場合であっても制作する時は緊張しますが、故人の場合は特に緊張が強くなります。なぜなら注文された方は故人との大切な思い出を忘れたくないという思いを持たれているため、その大切な思い出を壊してはいけないと思うからです。
　

　人間は生きている以上、大切な人との別れを避けては通れません。自分の親だったり兄弟や親友、場合によっては我が子に先立たれることもあります。存命中には喧嘩をすることもあったでしょう。親などは疎ましく感じる時期もあるものです。しかし亡くなってからその存在の大切さを改めて感じます。もっと優しく接していれば良かった、何故あの時にあんなことを言ってしまったのだろう、などと後悔することもあるかもしれません。そしてしばらくは深い悲しみに包まれて日々を過ごすことになるでしょう。
　

　それでも時間の経過とともに少しずつ悲しみが癒えてくるものです。そして何らかの思いがきっかけとなり故人にそっくりな人形を注文するに至る方がいるのだと思います。注文される方は自分の思いをその人形に投影することになるのですから、当然それに相応しいものを作らなければいけません。似ていると思える人形でなければ思いを投影することは出来ないでしょう。人形を見て亡くなられた本人であると感じられなければ意味が無いのです。
　

　故人のそっくり人形は、注文主と故人との全ての思い出と注文主の大きな悲しみやそれを乗り越えてきた辛さなど全てを背負っているのだと思います。場合によっては注文主だけでなく故人を知る全ての人達にとって同じような存在であることが求められます。制作者の責任は重大です。皆の期待を裏切るわけにはいきません。それだけに完成後に喜んで頂けたことを知るととてもうれしいと同時に安堵の気持ちでいっぱいになります。この仕事していて良かったと思える瞬間です。