そっくり人形作りの公式

　人間の認識力は不思議です。よく知っている人の顔はどのような写真を見せられても同じ人物であると認識できますが、知らない人の顔の場合は違う人だと認識してしまうことはよくあることです。このことがそっくり人形を作るときに大きく関係してきます。
　

同じ人の違う顔

　人形制作のためにご提供いただいた写真がそれぞれ表情が違うと同じ人には見えないことがあります。送り主はご本人やお知り合いなどですから同じ人物に見えているのでしょう。しかし制作する私は初めて拝見する顔なので同じ人のようには見えません。その場合はどの顔を基準にして制作すれば良いのか迷います。
　

　人間は有名人など良く知っている他人の顔写真は表情や角度が違っていても本人であることを正しく認識できます。俳優が変装して役を演じていても分かります。しかし良く知らない顔、特に初対面の顔写真は正しく認識出来ないという特徴があるようなのです。そのため防犯カメラなどに映っている画像を基に犯人捜しをすると全くの他人が逮捕されるような冤罪が起こるそうです。知らない他人が見て〝そっくり〟だと思っても同じ人とは限りません。その逆も起こります。何年も捕まらない指名手配犯があなたの身近で普通に生活しているかもしれません。その人のことを良く知らないから公開されている手配写真とその本人が同じ人物だと周りの誰も認識出来ないのです。
　

　有名人の似顔絵がデフォルメされていても多くの人が似ていると感じるのはこのことと大いに関係があると思います。デフォルメはその人の特徴的なところを誇大に表現していますので、正確に言うとそっくりではありません。それでもそっくりだと皆が思うのはその人のことを良く知っているからこそと言えるでしょう。
　

　人の印象を表す要素は複数あります。特に表情は大事です。同じ人でも暗い表情と明るい表情では印象がだいぶ違います。悲しんでいるのか喜んでいるのかを表現している重要なパーツは口です。目ではありません。口が表情の多くを支配しています。口元が違うことで表情が大きく変わるのです。年配者がいつも不機嫌そうに見えるのは口角が下がっているからです。これは年齢と共に皮膚がたるむので仕方がないことです。話をしてみると意外と優しい人であることが多いです。表情と内面は一致しません。
　

　このようなことから、人形制作の資料として複数の写真をご用意いただくときは出来るだけ表情を統一していただけるとありがたいです。特に口角が少し上がった笑顔であると制作しやすいですし、心が和みます。これ、大事なことです。