そっくり人形作りの公式

　人間はいろいろな経験をしていますが多くのことを忘れてしまいます。恐らくその方が生きていくうえで都合が良いからなのでしょう。全てのことを詳細に覚えていたら辛い出来事をいつまでも引きずって生きていかなければいけません。一度でも悲しい思いをしたらそのことで残りの人が悲しみ色で染まってしまいます。しかしそのような悲しみに彩られた体験の中にも忘れたくない人はいると思います。その人をそっくり人形として自分の手元に残しておけばいつも身近に感じることが出来ます。
　

忘れたくない人

　今日は3月31日、年度末です。別れの季節の最終日と言えます。別れの経験は寂しく悲しいものです。だからと言ってすぐに忘れてしまう方が良いというものでもありません。
　

　大事な人との別れ。もう二度と会えなくなるというのは悲しいことです。しかし日が経つにつれてその悲しみは薄れていくものです。問題はそれが良いことなのかどうか、です。確かに大きな悲しみという暗闇から抜け出すことは残りの人生を生きていくためには必要なことなのですが、あれほど大事だと思っていた人のことを少しずつ忘れていく自分を許せないという思いも生じてくるように感じます。忘れて楽になっていく自分と大事な人のことを忘れていく薄情な自分との間で葛藤するのではないでしょうか。
　

　私にはそのような経験はありませんが、もしも我が子に先立たれたとしたらその直後はずっとその悲しみに打ちひしがれて毎日を暮らすことでしょう。しかし何年も経てばその子のことを忘れてくだらないテレビ番組などを見て大笑いしている時間もあるのだと思います。私なら恐らくそんな自分が嫌になるでしょう。親としてなんて薄情なのだろうかと自己嫌悪に陥り、毎日をのほほんと暮らしていることを情けなく感じると思います。
　

　人生を前向きに生きるためには悲しい出来事を忘れることはとても大事です。悲しいことは早く忘れたいという人はそれで良いでしょう。でも悲しくても忘れたくない、忘れてはいけない思い出があるという人もいることと思います。この人のことだけは忘れたくないという思いがある人のために人形を作りたい、それが私の人形作りへの思いです。