絵画鑑賞

　今日はある美術展に行ってきました。前職で知り合った男性の絵が展示されていることを知ったからです。
　

意外性の男

　この男性は生活する上での困難さを抱えている人です。前職で私はそういう人達との関りがありました。あくまでも仕事上だけの関りであってプライベートのことは必要がない限り知ることはありません。そして彼とはある理由により会うことはなくなりました。仕事として関わることができなくなったのです。
　

　彼は周りの人達に気を使う性格でした。仕事で頑張り過ぎたり、雑談などの時はその場を盛り上げようと率先してジョークを交えた話をしていました。それらの一つ一つが彼に大きな疲労を蓄積させていることは分かっていました。ですから無理にそのようにしなくて良いことを何度も伝えました。彼もそのことは自覚していたはずですが、難しかったようです。周りの目がどうしても気になってしまうのでしょう。自分の行動であっても自分の意志ではコントロールできないことはあるのです。結局彼は体調を崩してしまいました。
　

　彼が絵を描いていることは聞いていましたが、一度も観たことがなかったのでどのような絵なのかまでは知りませんでした。もう何年も会っていませんが、ぜひ観てみたいと思い車を走らせました。田舎町の美術展なので規模は小さいですが、それでも入賞したことは彼の人生において大きなことだと思います。
　

　意外でした。風景画なのではないかと想像していたのですが、違っていました。彼の名前の上に掲げられていた額の中に描かれていたのは人物画でした。対人関係で苦しんでいた彼が人間を描いていたことに驚きとともにうれしさも感じました。
　

　結果的に私は彼の力にはなれませんでした。それだけに今どうしているのかはずっと心の片隅にありました。でも彼の絵を観て、私の知らないところで彼なりに人生を楽しめていることが何となく想像出来ました。人との関わりの中でつらい思いを何度もしたと思います。理想の自分と現実の自分とのギャップに苦しんだことでしょう。そしてそれは恐らく今でも続いているのだと思います。生活は楽ではないはずです。そんな状況でも自分自身との付き合い方に折り合いをつけながら生きていく術を少しずつ身に付けているのではないか、彼の絵からそのような印象を受けました。
　

　彼とはもう会うことはないでしょう。私のこともすっかり忘れていると思います。でも元気そうでいるようなので、それで良いと思っています。