そっくり人形ヒロのひとりごと 190704 ~聞いてもらいたいわけじゃないけど…~

配慮と差別

 配慮とは何か、差別とは何か、前者は善で後者は悪、そうはっきりと分けられるようなイメージがあるがそれは正しいものなのだろうか。配慮と差別について改めて考えさせられるニュースを目にした。
 

ある投票所での話

 19歳の息子とその父親が選挙の投票に行き、投票所の職員から「(息子さんは)字が書けますか?」と聞かれて父親は侮辱されたと怒って帰ったというニュースをネットで知った。息子は知的障害があったようで、もしも自分で字を書けないようであれば職員が代筆する必要があるため確認をしたとのこと。保護者と言えども代筆は許されない決まりになっているからである。
 

 最初に目にした報道では詳しい内容は書かれていなかったので、職員の言い方が悪かったのかと思ったし、そう示唆するような記事に感じた。しかし、どうも父親が代筆しようとしたところ、それを止められたという経緯があったようである。結局息子は投票せずに帰ることになったらしい。このことを知ると父親の方に問題があるようにも感じる。
 

配慮と差別の違い

 こういうニュースが流れるといろんな意見が交錯する。「確認するのは当然」というものから「障害者の家族の気持ちが分かっていない」などというものまで様々である。中には行政全体の接し方の悪さや、世の中の障害者とその家族全体を指して中傷する人もいる。
 

 投票所に来た人が知的障害者であること(障害者手帳を所持していること)が分かるシステムになっているのかは私には分からない。分かるのならば全ての知的障害者に声を掛けているのだろう。そうではなく、字は書けるのに何となく見た目で声を掛けられたのであれば「侮辱された」と思うのも理解は出来る。ただ父親が代筆しようとしたのを見ての声掛けであれば、確認及び代筆は職員の職務なので当然である。
 

 確認は配慮の入り口である。配慮をするにはその人が何に困っているのかを知らないと出来ない。知るには本人に聞くのが第一で、本人が上手く表現できなければ保護者に聞くのが普通である。字が書けないことが分かれば、それを代筆する任に当たる人が支援することになる。書けないかもしれないと気付きながら確認せずに放置するのは差別であり、職務不履行になるだろう。
 

 ただ問題は本人が配慮を望んでいるかどうかである。今回の件は本人が父親の代筆を望んでいたとしてもそれは認められないことなので、投票したいのであれば職員の代筆は避けられない。しかし本人が職員の代筆を望まなかったので投票できず、その規則に不満があって父親が怒った可能性はある。真偽は分からないし、ここで追及するつもりもない。ただ、本人の意思は尊重しないといけない。周りが支援しようとしても本人が必要としていないならば、本人にとっては迷惑なことであり差別だと言われても仕方がない。
 

 これは障害者に限ったことではない。電車で高齢者に席を譲ろうとしたら気分を害されたという話は時々聞く。譲った方は配慮のつもりだが、譲られた方は「年寄り扱い」という差別を受けたと感じたのだろう。もちろん譲られて感謝されることの方が多いとは思う。配慮と差別は受け取り方によって変わるのである。
 

 確かに明らかに差別だと思われる言動は世の中にたくさんある。多くの障害者やその家族はそのようないわれのない差別を繰り返し受けてきたであろうことは想像できる。そういう体験をしてきていれば周りは差別だらけだと感じるのも理解は出来る。しかし、配慮としての言動までもを差別と受け取り相手を非難していては、世の中に「何もしない方がマシ」「見て見ぬふりが利口」という人たちを増やすだけのように思う。
 

 障害があるかないか、老人かそうでないかははっきりと線引き出来るものではない。福祉施策等の関係で便宜上決められてはいるが境界ラインの前後で明らかな違いがあるわけではない。誰にでも得意なことと苦手なことがあって、誰もが社会に理不尽さを感じながら生きているのだと思う。その中で誰かのために役に立とうと思ってした行為はそれだけで尊いものである。それに対して感謝こそすれ怒りで返すということはあってはならないと思う。たとえ迷惑だと感じても。
 

 自分が差別されたと感じた行為は本当に相手が差別の気持ちでしたことなのか、を考えないといけない。配慮か差別かの違いは言葉や行為そのものではなくそれを発した人の思いである。その思いまで辿り着こうともせずにその言動だけで差別だと判断してしまうのは、自分自身が他人を差別しているからなのではないだろうか。人間は自分の思いの及ぶ範囲のことでしか他人を判断できないものである。相手を責めるのではなく、まずは自分の胸の内を確かめてみてもいいのではないか。

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