そっくり人形作りの公式

　人の役に立つ仕事をしたい、そう思う人は少なくないと思います。そして実際に自分のやっている仕事はどれだけの人の役に立っているのだろうか、もっと他に人のためになる仕事があるのではないか、と悩む人も多いと思います。私が生業としている人形作りにしても〝道楽みたいな仕事〟と思っている人もいることでしょう。確かに趣味の延長と言えるような仕事かもしれません。でも注文があるということは依頼主の役に立っているとも言えそうです。果たして人の役に立つ仕事とはどのようなものなのでしょうか。
　

人の役に立つとは

　仕事に限らず、人の役に立つとはどういうことでしょうか。分かりやすいのは誰かのために何かをするということです。仕事では医者や介護士などは典型です。目の前の患者や利用者に対して直に治療や介護を行うのですから。そのことで感謝されればうれしいですが、必ず感謝されるとは限りません。時には非難されることもあると思います。
　

　また、誰かのためでなく自分が好きでやっていることが結果的に人の役に立つこともあると思います。例えばあるスポーツが好きで熱心に打ち込んでいるとその姿に感動する人が出てきます。その感動で前向きな気持ちになれたりします。スポーツではなく歌に励まされる人も多いことでしょう。これらは選手や歌手が意図していなくても人の役に立っているわけです。
　

　今週、競泳の池江璃花子選手が白血病であることを告白しました。とてもショッキングなニュースでした。まだ18歳の高校生でありながらアジアのトップに上り詰めた天才スイマーの過酷な運命に誰もが驚いたことでしょう。東京オリンピックでのメダル候補である本人のショックは計り知れないものだと思います。これまで私は彼女の活躍をニュースで知る程度で特別に注目していたわけではありませんでしたが、それでも大きなショックを受けました。数日たった今でも彼女の気持ちを考えると動揺してしまいます。それだけトップアスリートの影響力は大きいということなのだと感じています。
　

　白血病になる一般の若者は他にもいるでしょう。しかしそのニュースを聞いたとしてもこれほどまでに動揺はしないと思います。この違いは何なのでしょうか。自分の身内の不幸と他人の不幸の受け取り方が違うのは当然ですが、池江選手は身内ではありません。私が一方的に知っているだけの他人です。単に水泳に秀でた才能を有する少女というだけです。それなのにいつのまにか私を含めた多くの人々の心の中に大きな影響を与えるだけのものをいつの間にか彼女が自分の努力で築いていたということなのでしょう。
　

　これは自分の有する才能を磨くことで見ず知らずの他人に影響を及ぼすことが出来るということです。言い換えれば自分の持って生まれた能力を活かせば人の役に立つことが出来るということなのではないでしょうか。人の役に立つ仕事とは何なのかと探すよりも自分の持っている能力を活かすことが出来る仕事を選ぶことが人の役に立つ仕事をするための最初の一歩なのではないかと思うのです。