そっくり人形作りの公式

　粘土でも樹脂でもぬいぐるみでも、いろいろな人形を作れる方がお客様のニーズに応えやすいのでしょう。しかし残念ながら今の私にはそれに応えるだけの技量はありません。今後いずれはそうできるのかと言われても難しいように思えます。それは私の目指している姿とは言えないからです。いろいろなことが出来るので重宝すると言われるよりも、このことならこの人にお願いすれば間違いはないと言われた方がうれしいです。
　

スペシャリスト不要論？

　オールラウンダーが良いのかスペシャリストが良いのか、時々議論になる話です。以前はスペシャリストが求められていましたが、最近の企業ではスペシャリストは必要ないと宣言するところもあるようです。スペシャリストが抜けたときの穴を埋めることが難しいからです。終身雇用制度が崩壊した現代ではいつ誰が転職や独立をしてもおかしくありません。企業が時間とお金を掛けて育ててきた職人が定年までその企業に残る保証はありません。職人が転職や独立をしてしまうとそれまでの企業の努力が無駄になってしまいます。
　

　そのため最近は今までの作業工程を見直し、難しいところは機械に任せて誰でも簡単にできるように作業の効率化や簡易化を進めている企業が多いようです。従業員の誰もが全ての工程をこなすことが出来れば交代で休みを取りやすくなります。新人も早く仕事に慣れることが出来るので急な従業員の入れ替わりにも対応できます。会社側に取ったらメリットは多いです。
　

　しかし、従業員にしてみたら簡単に仕事を覚えられるということはやりがいを持ちにくいことに繋がる恐れがあります。〝仕事は生活していくために仕方なくやるものだからやりがいなんて求めていない〟と割り切れる人は大丈夫でしょうが、実際にはそう簡単に割り切れるものではないと思います。10年勤めても今年入社したばかりの新人と大差ない仕事をやっていることに漠然とした虚しさを感じるのではないでしょうか。
　

　人間の心理は複雑です。頭では理屈を理解できても心がそれに素直に従えるとは限りません。むしろ従えないことの方が多いように感じます。仕事は楽な方が良いと思っていても実際にいつまでも楽な仕事しか任せてもらえないと会社にとって価値のない存在なのではないかと不安になります。人間は自分の存在意義を無意識に求めています。広い世界の中でありのままの自分を受け入れてくれ安心できる場所を誰もが探しているのではないでしょうか。同じように会社内でも自分の能力を皆に認めてもらい存在価値を実感したい、そういう欲求はどこかにあるものです。自分のやっている仕事は誰にでもできる、自分がいなくても全く問題ない、ということを自覚させられるのは辛いものです。
　

　この仕事は自分でなくても出来る。むしろ自分よりも上手く出来る人は他に沢山いる。それならばこの席をその人のために空けて、自分は自分だからこそできる仕事をしたい。そう思うのは人間として当たり前なのだと思います。社会の考え方が変わっても人間個人の心の奥底に潜む思いはそう簡単に変わるものではありません。やりがいを見失った従業員ばかりを雇用する企業の行く末は明るいものなのでしょうか。働く人それぞれが自分の能力を活かしてスペシャリストになれる道を作ることも企業にとっては大事なことなのではないかと思います。