しつけと体罰２

　「身体に苦痛や不快感を引き起こす行為」を体罰と定義してしまうと、都合の悪いことは起きないのだろうか。例えば部活。運動部の練習はたいていの場合、苦痛を強いられるものだ。生徒が練習の厳しさに音を上げることは珍しいことではないだろう。人生の中にはこのような苦しさを伴うことを経験することはざらにあるものだ。また、嫌いな人に話しかけられただけで不快感を抱くことは普通の感情だ。誰が誰のどんな行為を不快と感じるかは千差万別である。これら全てを体罰だと言われたらどうするのだろうか。
　

体罰が無いということ

　虐待を防止することがこの法案の趣旨だが、子供達のしつけは体罰ではなく、褒めて伸ばそう、というのも目的の一つのようでもある。「褒めて伸ばす」ことは重要である。しかし、それだけでそんなに上手くいくものなのだろうか。
　

　人間は、誰でも褒められればやる気が出る、それは大筋で正しい。しかし、わざとらしい称賛には逆にやる気をなくすこともあるだろう。幼い頃は単純に褒めるだけで喜ぶものだが、ある程度の年齢になると「この程度のことで褒められても馬鹿にされているように感じる」と思うものである。それは成長の証だから喜ぶべきことなのだが、そうなると褒めるタイミングが難しくなる。褒めようと思っても褒める機会が見つけられないこともあるだろう。褒めるだけでは限界があるのではないか。
　

　やらなければいけないことをやらない時、やってはいけないことをやった時はどうするのか。言葉で諭すだけでしつけできるほど甘くは無い。体罰なしで叱っても逆切れされるだけで効果は乏しい。望ましい行動をした時にご褒美を用意するという方法で効果があるのは元から素直な性格の子供であって、多くは「ガキ扱いするな」と一蹴されるのがオチだ。
　

　もしも体罰なしで全ての人を望ましい方向に導けるのであれば、世の中から刑事罰は無くなるだろう。逮捕され刑務所で過ごさせることも体罰である。死刑は究極の体罰だ。多くの人が犯罪者にならないで生活しているのは、社会のルールに反したら、その罰として逮捕され監獄行きになることが抑止力の大きな要因となっているのは間違いない。
　

　車の運転をしているときには信号を守るのに、歩行者の立場になると安易に信号無視して横断する人は少なくない。これは歩行者ならルールを守らなくても逮捕されないという暗黙の了解があるからだ。ルールを守らないと罰を適用されるからこそ守るのである。守らなければいけないことを理解しているだけでは守られないルールは世の中にたくさんある。スマホのながら運転が減らないために罰則が強化されたのはその良い例だ。
　

　人間は愚かな生き物だ。自分が痛い目に合わないと（または、合うことを予測できないと）ルールを守れないのである。我が身の苦痛や不快感と引き換えに社会秩序を守っているという側面があることは否めない。社会でも学校でも家庭でも、その場のルールを守らないと嫌な罰を受けることはそれぞれの秩序を守ってもらうためには必要なものだと思う。
　

　たとえ厳罰があっても「ばれないから大丈夫」と不正を続ける輩が社会的に立派だと思われている人に多いことも事実だ。こういう人達は社会的地位が高いので、常日頃周りの人達からおだてられていることが多いだろう。褒められてばかりいる結果がこれである。「アメとムチ」は適度に使い分けることが大事なのだ。
　

　「身体に苦痛や不快感を引き起こす行為」は社会秩序を他人に守らせるのみならず、自分自身で守る上でもある程度は必要なのである。問題はその手段や程度、更には相手に対する思い（愛憎）である。一律に全ての体罰を悪とするのは悪質な虐待事件ばかりに囚われ過ぎた視点だ。その結果が、育児に悩んでいる善良な親達を更に自信喪失させ自己否定感を増長し精神的に追い詰めさせるかもしれないことに思いを馳せることは出来ないのだろうか。