そっくり人形作りの公式

　さて人形作りに公式はあるのかということからここまで話をしてきました。私見として、正しく見る眼力と想像力、それを表現する技術、そして豊富なアイデアが人形作りには必要であるということも述べました。単純に本人そっくりに作るだけならアイデアは必要ありません。ただ、その人形が他で作るものとは違う魅力のある商品として価値を持つために必要となるのです。

そっくり人形の付加価値とは

　そっくり人形として売り出している以上はそっくりなのは当たり前。ただお客様と制作者との感覚の違いでそっくり感にズレが生じることもあるでしょう。そもそも制作者は直接ご本人にお会いすることは稀で、数枚の写真だけを基にして作っているのでズレが生じるのは仕方がないとも言えます（それを埋めるのが想像力なんですが）。ただそれを言い訳にすることは出来ません。そのため制作中にお客様と連絡を取って確認してもらったり完成後の修正も受けるなどしてズレの解消に努めています。
　

　つまり、そっくり人形を作る人がたくさんいる状況ではその人形がそっくりであることに特別な価値はないのです。携帯電話が出始めた頃はいつでもどこでも電話が出来るということだけで大きな価値がありました。しかし数年後に多くの人が携帯電話を持つようになるとどこにいても電話が出来るのは当たり前になりました。そしてそれだけでは何の魅力もなくなり新たな価値を加える必要が生じました。今では多機能のスマホに取って代わられて生き残りが難しい状況になっています。そっくり人形も同じです。そっくり人形としての価値を高めるためにはそっくりということ以外の魅力が必要なのです。
　

　では価値を高めるための魅力とはどのようなことがあるのでしょうか。分かりやすいのは〝品質は変わらないのに断然安い〟ということでしょう。〝コスパが良い〟というやつですね。同程度の性能の電化製品であれば当然安いものの方が魅力的ですからね。でもこれってオーダーメイドの商品では限界があります。それにあまり安くても〝粗悪品なのでは？〟といういらぬ疑いを掛けられる恐れもあります。実際に低価格にしようと思ったら制作時間を短縮するのが一番です。しかし急ぐことで気付かないうちに粗悪品を作ってしまうという結果にもなりかねません。制作者としてそこに力を入れ過ぎるのは好ましいとは思えません。時間を掛ければ掛けるほど良いものが出来るというわけでもないのですが。

最近気になること

　最近SNSが普及しているからか、他人の行動の結果に対して厳しい意見が多くなっている気がします。一般の人が匿名で気軽に私見を述べることが出来るようになったからなのか、あまりにも結果重視の短絡的な批判が目立つのが気になります。
　

　そもそも我々が得ている情報はメディアを通じてのものが殆どで、そのメディアが真実を全て伝えきれているとは思えません。各メディアの事情で敢えてある方向へ導こうと意識的に情報操作していることもありそうです。
　

　そういう情報を基にして失敗した結果に対して批判ばかりするのは如何なものかと思います。失敗するか成功するかはほんの紙一重の差だったのかもしれません。その判断は難しく、全ての事情を知らない人間が批判するようなことではありません。紙一重の差で成功した人を拍手喝采で称賛するのに僅かの差で失敗したら批判の対象にされるのではあまりにも理不尽です。
　

　他人の命を守るために敢えて危険に立ち向かう人がいます。素晴らしい行為でありそれだけで称賛に価すると思います。しかしそのような人達全てが成功を収めるわけではありません。中には志半ばにして使命を完遂できず、結果的に本人の意向に反して周りに多大な迷惑を掛けてしまうこともあるでしょう。その時にその人は迷惑を掛けたということだけで多くの人の批判にさらされなければいけないのでしょうか。使命が完遂できなかった真実が全く知られていないのに。批判するのは直接迷惑を被った当事者だけで十分です。
　

　少し前にボランティアの男性が行方不明の幼児を救出したニュースが報じられて多くの称賛を浴びました。批判の声は聞こえません。しかしもしこの男性が幼児を捜索中に土地勘のない山中で迷い大怪我をして帰って来られずに新たな捜索騒ぎになってしてしまったらどうだったのでしょうか。人間である以上失敗はつきものです。その可能性は０ではありません。その場合には〝年寄りのくせに出しゃばって余計なことをするからだ〟などと批判されたことは想像に難くないでしょう。しかし成功しようが失敗しようがその男性の本質は何も変わらないはずです。その男性が成功したのも〝年寄りが出しゃばって余計なことをした〟から救出できたのです。結果が違っても行動は同じです。結果だけで人の行動を批判することはおかしいのです。
　

　成功か失敗かは僅かな差です。ちょっとした判断の間違いなど差を分ける事情は存在するでしょう。でも間違いを犯さない人間などいないのです。自分がその状況に置かれたら間違った判断をしていたかもしれません。間違えない保証などどこにもありません。何もしていない人間が結果だけを見て批判するのはあまりにも浅薄です。そもそも他人のために行動すること自体に価値があるのではないでしょうか。困難なことに挑戦することだけでも称賛に価すると私は思います。