そっくり人形作りの公式

　人間の顔は不思議です。数個のパーツによる単純な構成なのに同じ顔の人はいません。それぞれのパーツが似ていてもその配置の僅かな違いで全くの別人であることを認識させます。
　

パーツの配置

　似顔絵でもそっくり人形でも似ているか似ていないかはこのパーツの配置が大きなカギです。それぞれのパーツがとても似ていても配置を間違えるとそっくりには見えません。逆にパーツが大して似ていなくても配置が良ければ似て見えます。デフォルメされていてもそっくりに見えるのは配置が良いからとも言えます。
　

　私はそっくり人形を作るときにこの配置を一番重要に考えます。一般的には目の形がそっくり度に大きく影響すると思われがちですが、実際には目の形はそれほど重要ではありません。実物の人間でもその日によって目が腫れぼったかったり、二重瞼が一重になっている日がありますが、それでも別人とは感じません。寝過ぎか寝不足であることを推測する程度です。余程の厚化粧でなければ化粧を落としても本人だと分かります。
　

　しかし、もしもいつもよりも目が1㎝離れていたらどうでしょうか。似ているけどもしかしたら違う人かもしれない、と思うと思います。何か本人とは違うと違和感を覚えるのは間違いないでしょう。何故でしょうか。それは顔のパーツの位置が変わるはずがないと誰もが信じているからです。美容整形はそれぞれのパーツを整えることは出来ますが、配置を変えることは出来ません。化粧も同じです。通常の手段では形は変えられても配置は変えられないのです。
　

　我々の脳はパーツの形や色が少々変わっても自動的にその変化を調整して同じであることを認識できます。変えることが可能であることを知っているからです。しかし配置のズレに対しては調整することが困難なはずです。あらかじめ脳には配置が変わるはずがないとインプットされており、さらに配置のズレを調整をしたことがないからです。たとえ配置のズレを調整したことがあったとしても、その調整の結果同じ人だったという成功体験がある人はいないでしょう。ほとんどは〝そっくりだけど何か違うと思ったら双子（一卵性双生児）だった〟という結果（＝〝やっぱり違った〟）だと思います。
　

　つまり我々は顔のパーツの配置が違うことには必ず違和感を覚えるものなのです。そっくり人形でも似顔絵でもこのことは同じです。〝本人のようには見えない〟という思いを抱かせないために最も大事なのはパーツの配置であるというのはこのような理由からなのです。